2025年6月30日、カナダ政府は米国IT企業を対象としたデジタルサービス税の撤回を発表しました。この決定は、トランプ政権の強硬な交渉姿勢に対するカナダの譲歩として注目を集めています。
カナダ デジタル税撤回の背景には、米国との貿易関係悪化への懸念が存在しており、トランプ大統領による「すべての貿易協議打ち切り」発言が決定的な要因となりました。また、この出来事は他国のデジタル税政策にも波及効果をもたらす可能性があり、国際的な税制政策の転換点となる可能性があります。
この記事の要点
- カナダがデジタルサービス税を撤回した経緯と理由
- トランプ政権の交渉戦略と米国企業への影響
- デジタルサービス税の仕組みと対象企業の詳細
- 他国への波及効果と今後の国際貿易への影響
カナダ デジタル税撤回の背景と経緯

トランプ政権がカナダに圧力をかけた理由
トランプ政権がカナダのデジタルサービス税に強く反発した理由は、米国ハイテク企業への直接的な打撃を懸念したためです。米ホワイトハウスのレビット報道官は、「カナダが米ハイテク企業に打撃を与えるであろう税の導入を決めたのは間違いだった」と明確に述べています。
このような圧力の背景には、Google、Amazon、Apple、Microsoftなどの米国主要IT企業がデジタルサービス税の主要な対象となることが挙げられます。これらの企業は米国経済の重要な柱であり、海外での課税強化は米国の国益に直結する問題として捉えられました。
トランプ大統領は6月27日に「カナダのデジタルサービス税は米国企業に対する露骨な攻撃にあたる」と批判し、すべての貿易協議を打ち切る方針を表明しました。この強硬姿勢により、カナダ側は経済関係の悪化を避けるため、税制撤回という選択を余儀なくされました。
デジタルサービス税(DST)とは何か
デジタルサービス税は、インターネットを通じて海外に役務提供を行う多国籍IT企業を対象とした課税制度です。従来の法人税制では、物理的な拠点がない国での課税が困難でしたが、デジタル経済の発展により新たな課税方法が求められるようになりました。
多くの国では、全世界収益が年間7億5000万ユーロ以上、かつ当該国でのデジタルサービス収益が一定額以上の企業を対象としています。課税対象となるサービスには、オンライン広告、デジタルプラットフォーム、データ販売などが含まれており、収益に対して通常3%程度の税率が適用されます。
現在、フランス、イタリア、イギリスなど複数の国がデジタルサービス税を導入済みです。ただし、これらの税制は米国IT企業に偏って適用されることが多く、米国からは「差別的な課税」として強い反発を受けています。
カナダが30日導入予定だった税制の詳細
カナダのデジタルサービス税は、2024年に法制化され、2025年6月30日が最初の納付期限でした。この税制は、全世界収益が年間10億カナダドル(約1100億円)以上、かつカナダでのデジタルサービス収益が年間2000万カナダドル以上の企業を対象としていました。
課税対象となるサービスには、検索エンジン、ソーシャルメディア、オンライン広告、電子商取引プラットフォーム、ユーザーデータの販売が含まれていました。税率は対象収益の3%とされ、四半期ごとの申告・納付が義務付けられる予定でした。
カナダ財務省の試算では、年間約8億カナダドルの税収が見込まれており、主要な対象企業としてGoogle、Facebook(Meta)、Amazon、Apple、Microsoftなどが想定されていました。しかし、米国の強い反発により、施行直前での撤回となりました。
米国ハイテク企業への影響と懸念
米国ハイテク企業にとって、カナダのデジタルサービス税撤回は大きな負担軽減となります。仮に税制が導入されていた場合、これらの企業は追加的な税負担を負うことになり、収益性の低下や競争力の削減が懸念されていました。
ラトニック米商務長官は「米の技術革新を阻害することを意図し、米との貿易協定を破棄することになるであろうデジタルサービス税を撤廃してくれたカナダに感謝する」とコメントしています。これは、デジタルサービス税が単なる課税問題ではなく、技術革新や貿易関係全体に影響を与える重要な政策課題であることを示しています。
一方で、カナダをはじめとする各国にとっては、デジタル経済から適切な税収を確保することが困難になる可能性があります。グローバル企業が各国で利益を上げながら、従来の税制では十分な課税ができない問題は依然として残されています。
カナダ デジタル税撤回による国際貿易への波及効果

米国の交渉戦略「相互関税」政策の実態
トランプ政権の交渉戦略は「相互関税」政策と呼ばれ、他国の貿易措置が米国に対して不公平であると判断した場合、対等な措置で対抗するという方針です。今回のカナダ デジタル税撤回の件でも、この戦略が効果的に機能したことが実証されました。
相互関税政策の特徴は、二国間交渉を重視し、多国間の枠組みよりも直接的な圧力をかけることにあります。トランプ大統領は「地球上の全ての国が米国と良好な貿易関係を築く必要があることを認識している」と述べており、この姿勢が交渉の基本方針となっています。
しかし、この手法には課題もあります。短期的には成果を上げやすい一方で、長期的な信頼関係の構築や多国間協調の観点では問題が生じる可能性があります。また、相手国の経済規模や依存度によって効果が大きく左右されるため、すべての国に対して同様の効果を期待することは困難です。
EU諸国のデジタル税導入状況への影響
カナダのデジタル税撤回は、EU諸国の政策にも大きな影響を与える可能性があります。現在、フランス、イタリア、イギリス、スペインなど多くのEU諸国がデジタルサービス税を導入済みまたは検討中です。
EU諸国は従来、デジタル課税について米国と対立してきました。OECD(経済協力開発機構)での国際的な合意形成を目指しつつ、独自の課税制度を維持する姿勢を示していました。ただし、今回のカナダの事例により、米国の圧力に対する各国の対応に変化が生じる可能性があります。
特に、EUは米国にとって中国に次ぐ第2位の貿易赤字相手であり、トランプ政権からの圧力がさらに強まることが予想されます。EU側は「交渉優先」の姿勢を維持していますが、安全保障協力との兼ね合いも考慮する必要があり、複雑な判断を迫られています。
他国が同様の撤回を迫られる可能性
カナダの事例は、他国にとって重要な先例となります。トランプ政権は今後、EU諸国や他の国々に対しても同様の圧力をかけることが予想されており、デジタルサービス税を導入している国々は難しい選択を迫られる可能性があります。
共同通信の報道によると、「DSTに反発するトランプ米大統領に貿易協議を打ち切られたのを受け、譲歩した。DSTは欧州でも導入が進んでおり、米政権が貿易交渉を通じて他国にも撤回を求める可能性がある」とされています。
ただし、すべての国がカナダと同様の対応を取るとは限りません。経済規模、米国との貿易依存度、政治的な関係性などにより、各国の対応は分かれる可能性があります。また、多国間での協調により、米国の圧力に対抗する動きも考えられます。
今後の米加貿易交渉の展望(7月21日合意目標)
カナダのカーニー首相とトランプ大統領は、関税などをめぐる交渉について7月21日までの合意を目指すことで一致しました。この短期間での合意目標は、両国の緊密な経済関係を反映しており、迅速な問題解決への意欲を示しています。
合意に向けた交渉では、デジタル税以外にも様々な貿易問題が議論される予定です。USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の枠組みの中で、関税、規制、投資などの分野での調整が行われる見込みです。
カーニー首相は「デジタルサービス税についてのきょうの発表は、アメリカとの合意に向けた交渉の再開をサポートするものだ」とコメントしており、今回の譲歩を交渉進展の足がかりとする意向を示しています。ただし、カナダ国内では主権的な税制政策の放棄に対する批判も存在するため、今後の政治的な影響も注視する必要があります。
まとめ
カナダのデジタル税撤回は、トランプ政権の強硬な交渉戦略が功を奏した事例として国際的な注目を集めています。この出来事は、デジタル経済時代における税制政策と国際貿易の複雑な関係を浮き彫りにしました。
今後は他国への波及効果や、7月21日の米加合意に向けた交渉の進展が焦点となります。デジタル課税をめぐる国際的な議論は継続する見込みであり、各国の政策動向を注視していく必要があるでしょう。
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