世界各国でEV(電気自動車)への転換が急速に進む中、日本だけが逆行する驚くべき現実が明らかになりました。2024年の日本におけるEV販売台数は前年比33%減という衝撃的な数字を記録し、わずか5万9736台という低迷ぶりを示しています。
一方で、中国では1130万台、欧州では318万台のEVが販売され、世界全体では1750万台という過去最高を更新する中での日本の状況は、まさに世界EV市場の成長、中国EV市場拡大、欧州EV普及状況とは対照的な結果となっています。日本EV販売台数減少の背景には、充電インフラ不足、車両価格の高さ、集合住宅充電課題といった構造的な問題が存在し、ハイブリッド車優位の市場環境が続いている現状があります。
さらに、トヨタEV戦略の見直しや海外メーカー参入による市場変化、BEVと環境問題への対応、政府補助金制度の効果と限界、技術革新と課題、カーボンニュートラルへの取り組みなど、複数の要因が複雑に絡み合っています。
この記事を読むことで以下の4つのポイントを理解できます:
- 世界のEV市場で日本だけが販売台数減少に転じた具体的な理由と背景
- 中国・欧州の驚異的なEV普及率と日本の2%という低水準との格差の実態
- 充電インフラ不足や集合住宅問題など日本特有の構造的課題の詳細
- トヨタをはじめとする日本メーカーのEV戦略見直しが業界に与える影響
世界がEV化に向かう中で日本が直面する現実

- 世界EV市場の成長が加速する背景
- 中国EV市場拡大の驚異的な数字
- 欧州EV普及状況と政策的後押し
- 日本EV販売台数減少の衝撃的な実態
- 車両価格の高さが普及を阻む要因
世界EV市場の成長が加速する背景
国際エネルギー機関(IEA)の最新データによると、2024年の世界EV販売台数は前年比25%超増の1750万台を記録し、全新車販売台数に占める比率は22%まで拡大しました。この驚異的な成長の背景には、各国政府による強力な政策支援と技術革新の相乗効果があります。
特に重要な要因として、パリ協定に基づく各国の脱炭素化目標の設定が挙げられます。2030年までに温室効果ガス排出量を大幅に削減するという国際的な取り組みの中で、運輸部門における電動化は避けて通れない課題となっています。また、バッテリー技術の向上により航続距離が延び、充電時間も短縮され、消費者にとってEVがより実用的な選択肢になってきました。
さらに、製造コストの低下も普及を後押ししています。大量生産によるスケールメリットと技術革新により、EVの価格は年々低下傾向にあり、一部の地域ではガソリン車との価格差が縮小しつつあります。
中国EV市場拡大の驚異的な数字

中国のEV市場は文字通り爆発的な成長を遂げており、2024年には前年比約40%増の1130万台という驚異的な販売台数を記録しました。これは世界全体のEV販売台数の実に64.6%を占める圧倒的な数字です。
中国政府は2009年から新エネルギー車の普及を国家戦略として位置づけ、購入補助金、税制優遇、充電インフラ整備への大規模投資を継続的に実施してきました。その結果、2024年の中国国内でのEVシェアは約48%に達し、新車販売の約半分がEVという状況が実現しています。
また、中国は単なる消費市場にとどまらず、世界のEV製造拠点としても圧倒的な地位を築いています。世界のEV製造の70%を中国が担い、BYD、上海汽車、長城汽車などの中国メーカーが海外展開を積極的に進めています。2024年には約125万台のEVを他国に輸出し、グローバル市場での存在感を急速に高めています。
欧州EV普及状況と政策的後押し

欧州では2024年のEV販売台数が318万台となり、新車販売に占めるシェアは約25%に達しました。特にノルウェーでは新車販売の約92%が電動車という驚異的な普及率を実現しており、スウェーデン(58%)、デンマーク(56%)、フィンランド(50%)といった北欧諸国がEV先進地域として世界をリードしています。
欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止する方針を打ち出し、自動車メーカーに対して厳しいCO2排出基準を設定しています。この規制により、メーカーは積極的にEV開発に投資せざるを得ない状況となっており、市場への供給が急速に拡大しています。
また、充電インフラの整備も着実に進んでおり、高速道路沿いの急速充電器設置や都市部での普通充電器の拡充により、消費者の「充電不安」を解消する取り組みが功を奏しています。税制面でも、EVに対する優遇措置やガソリン車への課税強化により、消費者の選択をEVに誘導する政策が展開されています。
日本EV販売台数減少の衝撃的な実態
これらの世界的なEV普及の流れとは対照的に、日本では2024年のEV販売台数が前年比33%減という衝撃的な減少を記録しました。販売台数はわずか5万9736台にとどまり、国内新車販売台数全体に占める割合は2%未満という低水準が続いています。
この減少は4年ぶりの現象であり、世界的なEV普及の潮流から日本だけが取り残されている現実を浮き彫りにしています。特に注目すべきは、国産EVの販売が大幅に減少する一方で、外国製EVは5.7%増の2万4198台と過去最高を更新している点です。
中国のBYDは日本市場で2223台(54%増)を販売し、初めてトヨタのEV販売台数を上回るという象徴的な出来事も起きています。これは日本の自動車産業にとって警鐘を鳴らす出来事であり、国内メーカーのEV戦略の見直しが急務であることを示しています。
車両価格の高さが普及を阻む要因
日本でEVが普及しない最大の要因の一つが、依然として高い車両価格です。現在市販されている国産EVを見ると、日産リーフが約408万円から、軽EVの日産サクラでも約254万円からという価格設定となっており、同等クラスのガソリン車と比較すると100万円以上の価格差が存在します。
この高価格の主な要因は、車両価格の3分の1から半分を占めるバッテリーコストにあります。リチウムイオンバッテリーの原材料であるリチウム、コバルト、ニッケルなどの価格高騰と、バッテリー製造技術における中国との技術格差が価格競争力の低下を招いています。
政府や自治体による補助金制度は存在するものの、最大でも数十万円程度の支援にとどまり、根本的な価格差を解消するには至っていません。消費者にとっては、初期投資額の高さが購入の大きな障壁となっており、燃料費の安さというEVのメリットを十分に活かしきれない状況が続いています。
日本のEV普及を阻む構造的な問題とは

- 充電インフラ不足が生む消費者の不安
- 集合住宅充電課題が示す日本特有の事情
- ハイブリッド車優位が続く市場環境
- 海外メーカー参入による市場変化
- トヨタEV戦略の見直しと業界への影響
- BEVと環境問題から見る長期的課題
- 政府補助金制度の効果と限界
- なぜ日本はEV化が加速する世界に逆行するのか
充電インフラ不足が生む消費者の不安
日本におけるEV普及の最大の障壁の一つが、充電インフラの絶対的な不足です。経済産業省の統計によると、2024年末時点での国内の公共充電器設置数は約3万基にとどまり、政府が目標とする2030年までの30万基には遠く及ばない状況です。
特に深刻なのが急速充電器の不足で、高速道路のサービスエリアや主要幹線道路沿いでも設置密度が低く、長距離移動時の「充電不安」が消費者のEV購入をためらわせる大きな要因となっています。また、既存の充電器についても、設置から10年以上経過した古い機器が多く、充電速度の遅さや故障頻度の高さが利用者の不満を招いています。
都市部と地方の格差も深刻で、東京や大阪などの大都市圏では充電器の設置が進む一方、地方部では設置そのものが遅れており、EVでの移動に支障をきたすケースが頻発しています。この状況は、消費者にとってEVを「実用的でない選択肢」と認識させる要因となっています。
集合住宅充電課題が示す日本特有の事情

日本の住宅事情がEV普及に与える影響は極めて深刻です。総務省の住宅・土地統計調査によると、都市部では全世帯の約6割がマンションやアパートなどの集合住宅に居住しており、自宅での充電環境を整備することが困難な状況にあります。
集合住宅での充電設備設置には、管理組合での合意形成、電気容量の確保、工事費用の負担など、多くのハードルが存在します。特に築年数の古いマンションでは、電気設備の容量不足や配線の老朽化により、充電設備の設置自体が技術的に困難なケースも多く見られます。
また、賃貸住宅に住む世帯にとっては、大家や管理会社の許可が必要であり、個人の判断だけでは充電環境を整備できないという制約があります。この問題は、日本の都市部の住宅事情と密接に関連しており、根本的な解決には時間を要する構造的な課題となっています。
ハイブリッド車優位が続く市場環境
日本の自動車市場では、ハイブリッド車(HV)が強固な地位を築いており、2024年の新車販売に占めるHVのシェアは約40%に達しています。特にトヨタのプリウスやアクア、ホンダのフリードやヴェゼルなどの人気車種により、消費者の間でHVが「環境に優しく実用的な選択肢」として定着しています。
HVの優位性は、充電インフラに依存しない点、ガソリンスタンドでの給油という従来の習慣を変えずに済む点、車両価格がEVより安価である点などにあります。また、日本の短距離中心の走行パターンでは、EVの航続距離の優位性が十分に活かされず、HVの燃費性能で十分というユーザーも多く存在します。
さらに、電力料金の値上がりにより、EVの運用コストの優位性が薄れてきていることも、HV選択を後押ししています。特に夜間電力料金の値上がりにより、自宅充電のコストメリットが以前ほど明確でなくなっている地域もあります。
海外メーカー参入による市場変化
日本のEV市場に変化をもたらしているのが、中国をはじめとする海外メーカーの積極的な参入です。2024年に外国製EVが5.7%増の2万4198台と過去最高を更新し、全体の約40%を占めるまでになりました。
特に注目されるのが中国BYDの躍進で、2024年に2223台を販売し、54%の大幅増を記録しました。BYDは価格競争力の高い車種を投入し、従来の「EVは高価」というイメージの払拭に成功しています。また、充実したアフターサービス体制の構築により、消費者の不安を軽減する取り組みも評価されています。
テスラも引き続き一定のシェアを維持しており、高性能EVに対する需要を取り込んでいます。これらの海外メーカーの参入により、日本の消費者にとってEVの選択肢が拡大し、競争激化による価格下落やサービス向上が期待される一方、国内メーカーにとっては厳しい競争環境が生まれています。
トヨタEV戦略の見直しと業界への影響

世界最大の自動車メーカーであるトヨタのEV戦略見直しは、日本の自動車業界全体に大きな影響を与えています。同社は2026年のBEV販売計画を当初の150万台から80万台に大幅に下方修正し、業界に衝撃を与えました。
この戦略変更の背景には、EV市場の成長鈍化への懸念と、ハイブリッド技術への継続的な投資判断があります。トヨタは「マルチパスウェイ戦略」を掲げ、HV、PHEV、BEV、燃料電池車(FCV)の多様な電動化技術を並行して開発する方針を堅持しています。
しかし、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンが発表した報告書によると、トヨタの現在のBEV計画では、パリ協定が求める1.5度目標の達成に必要な脱炭素化のペースに追いついていないとの指摘があります。2023年にトヨタが販売した車の走行中CO2排出量4億3628万トンのうち、98.9%が内燃機関車とHVによるものであり、環境負荷の大きさが問題視されています。
BEVと環境問題から見る長期的課題
バッテリー式電気自動車(BEV)と環境問題の関係は、単純な「EVは環境に良い」という図式を超えた複雑な側面を持っています。確かにBEVは走行中にCO2を排出しませんが、バッテリー製造時の環境負荷や電力供給の電源構成による影響を考慮する必要があります。
日本の電力供給における火力発電の比率は約7割を占めており、石炭火力発電の割合も高いため、BEVの環境負荷削減効果は電力のクリーン化と密接に関連しています。再生可能エネルギーの導入拡大と電力系統の脱炭素化が進まない限り、BEVの真の環境メリットは限定的になる可能性があります。
また、バッテリーに使用されるリチウム、コバルト、ニッケルなどの希少金属の採掘は、環境破壊や人権問題を引き起こすケースがあり、サプライチェーン全体での持続可能性の確保が課題となっています。これらの問題は、長期的なBEV普及においては避けて通れない重要な検討事項です。
政府補助金制度の効果と限界
日本政府は「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金(CEV補助金)」をはじめとする各種支援制度を展開していますが、その効果には限界があることが明らかになっています。2024年度の補助金予算は約375億円が確保されているものの、EV販売台数の減少傾向を食い止めるには至っていません。
補助金の支給額は車種により異なりますが、多くの場合数十万円程度にとどまり、ガソリン車との価格差を完全に埋めるには不十分です。また、補助金の申請手続きが複雑で、購入から支給まで数か月を要するケースもあり、消費者の購入意欲を削ぐ要因となっています。
地方自治体の独自補助金制度との併用により、総額100万円近い支援を受けられる地域もありますが、自治体間の格差が大きく、居住地域によってEV購入の経済的メリットに大きな差が生じているのが現状です。
補助金制度の課題
現行の補助金制度には構造的な問題があります。第一に、予算の制約により年度途中で予算枠が枯渇し、申請を受け付けられなくなるケースが発生しています。第二に、補助金の対象となる車種や条件が頻繁に変更され、消費者や販売店が制度を十分に理解できない状況があります。
なぜ日本はEV化が加速する世界に逆行するのか
日本がEV化の世界的潮流に逆行している根本的な理由は、これまでに述べた個別要因が複合的に作用した結果です。充電インフラ不足、集合住宅問題、車両価格の高さ、ハイブリッド車の優位性などが相互に影響し合い、EV普及を阻む「負のスパイラル」を形成しています。
さらに重要なのは、日本の自動車産業が長年にわたってガソリンエンジンとハイブリッド技術で世界をリードしてきた成功体験が、EV転換への踏み切りを鈍らせている側面があることです。特にトヨタをはじめとする日本メーカーは、既存技術への投資回収と新技術への投資のバランスを取りながら、慎重な戦略を取っています。
消費者の意識面でも、「EVはまだ実用的でない」「充電が面倒」「故障時の対応が不安」といった先入観が根強く残っており、これらの心理的障壁がEV普及の大きな妨げとなっています。政府の政策支援や技術革新だけでは解決できない、社会全体の意識変革が必要な段階に来ているといえるでしょう。
まとめ
世界のEV市場が急拡大する中で日本だけが販売台数減少という逆行現象を示している現状について、以下の重要なポイントが明らかになりました。
- 2024年の世界EV販売台数は1750万台と過去最高を記録し、シェア22%まで拡大
- 中国が1130万台で世界の64.6%を占め、欧州も318万台と堅調な成長を維持
- 日本のEV販売台数は前年比33%減の5万9736台で、シェアは2%未満にとどまる
- 充電インフラの絶対的不足が消費者の購入意欲を大きく削いでいる
- 集合住宅居住者が約6割を占める日本特有の住宅事情が自宅充電を困難にしている
- 車両価格がガソリン車より100万円以上高く、補助金では価格差を埋められない
- ハイブリッド車が約40%のシェアを占め、EVへの移行を阻んでいる
- 外国製EVが5.7%増と好調で、特に中国BYDがトヨタを上回る販売実績
- トヨタがBEV販売計画を150万台から80万台に下方修正し業界に衝撃
- 日本の電力供給の7割が火力発電でBEVの環境メリットが限定的
- 政府補助金制度は375億円の予算を確保も販売減少を止められず
- バッテリー製造時の環境負荷や希少金属採掘の問題が長期的課題
- 既存技術への成功体験がEV転換への踏み切りを鈍らせている
- 消費者の「EVは実用的でない」という先入観が心理的障壁となっている
- 技術革新と政策支援だけでは解決できない社会全体の意識変革が必要



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