中国経済が火の車状態に陥り習近平政権が米中貿易戦争で政策転換した背景

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中国の財政状況が火の車になっている現実が、今の習近平政権を苦しめています。30年に一度とされる大洪水が経済を直撃し、地方政府の債務危機が深刻化する中で、習近平政権は米中貿易戦争において前例のない妥協姿勢を示しました。

これまで強硬な姿勢を貫いてきた中国が、なぜフェンタニル規制やレアアース輸出制限の緩和に踏み切ったのか。その背景には、財政が火の車状態に陥った中国政府の苦しい台所事情があります。

不動産バブルの崩壊により税収が激減し、災害復旧費用が膨らむ一方で、地方政府の財政難が限界に達している状況を詳しく解説します。

この記事の要点

  • 中国の財政危機と地方政府の債務問題の深刻化
  • 30年に一度の大洪水が経済に与えた甚大な影響
  • 習近平政権が米中貿易戦争で妥協に転じた理由
  • 不動産バブル崩壊による税収減少と財政圧迫の実態

中国の財政が火の車状態で進む異常事態

地方政府の債務危機が深刻化する現実

中国の地方政府が抱える債務問題は、もはや隠しきれない規模に達しています。国際通貨基金(IMF)のデータによると、2022年時点で中国の地方政府債務は92兆元(約1,380兆円)に達し、GDP比で76%を占める状況です。

この債務規模は、単に数字が大きいだけでなく、実際の返済能力を大きく超えています。野村総合研究所の分析では、地方政府の財政収入が全体の54%にとどまる一方、公共予算支出に占める割合が86%前後という歪な構造が明らかになっています。

さらに問題となっているのは、約3分の1の主要都市が債務利息の支払いにも困窮している現実です。各地で公務員の給与遅配や公共サービスの削減が頻発しており、財政運営の破綻が目前に迫っています。

30年に一度の大洪水で追い打ちをかけられる経済

2024年の中国を襲った自然災害は、すでに窮状にあった財政に更なる打撃を与えました。中国応急管理部の発表によると、2024年上半期だけで自然災害による直接的な経済損失は931億6000万元(約1兆9000億円)に達しています。

特に深刻だったのは、貴州省を襲った「30年に一度」の大洪水です。この災害により、被災者は3,238万人に上り、インフラの復旧に莫大な費用が必要となりました。

災害復旧費用の負担は、すでに火の車状態の地方政府にとって致命的な重荷となっています。堤防の決壊や道路の崩落など、インフラの全面的な再構築が必要な地域も多く、財政圧迫は一段と深刻化しています。

不動産バブル崩壊が引き起こす税収減少

中国の財政危機を語る上で欠かせないのが、不動産バブルの崩壊による税収の激減です。朝鮮日報の報道によると、2021年に地方政府の財政収入に占める土地売却収入の割合は42.5%に達していました。

この土地売却収入が、2022年から2024年にかけて急激に減少しています。日本経済新聞の分析では、土地売却収入が55%以上も減少し、地方政府の財政基盤が根本から揺らいでいることが明らかになっています。

恒大集団や碧桂園といった大手不動産会社の経営危機も、この状況を一層深刻化させています。不動産市場の低迷により、地方政府は従来の財政運営モデルを根本から見直すことを余儀なくされています。

財政赤字の拡大と公共サービスの削減問題

財政危機の深刻化に伴い、中国各地で公共サービスの削減が相次いでいます。東洋経済の報道によると、資金調達のために罰金を増徴したり、公共事業を急遽中止したりする地方政府が続出しています。

この状況は、中国政府の威信にも大きな影響を与えています。住民への基本的な公共サービス提供が困難になることで、共産党政権の統治基盤そのものが揺らぐリスクが高まっています。

また、大和総研の分析では、2024年から2028年にかけて10兆元(約210兆円)の隠れ債務を地方政府債務に置き換える計画が発表されていますが、根本的な解決には程遠い状況です。

習近平政権が火の車財政で米中貿易戦争に屈服

貿易戦争で追い詰められた中国の政策転換

習近平政権がこれまでの強硬路線から一転して妥協的な姿勢を示した背景には、火の車状態の財政事情があります。ピクテ・ジャパンの分析によると、米中両国は115%の報復関税を撤廃することで合意し、中国側の大幅な譲歩が明らかになりました。

従来の習近平政権であれば、このような譲歩は考えられませんでした。しかし、地方政府の財政破綻が現実味を帯びる中で、経済制裁の長期化に耐えられないという判断が働いたものとみられます。

特に重要なのは、貿易戦争の継続が中国の財政収入に与える影響です。関税による経済活動の萎縮は、すでに減少している税収を更に悪化させる恐れがあったため、政策転換が急務となっていました。

フェンタニル規制強化による対米融和姿勢

中国政府が最も大きな譲歩を示したのが、フェンタニル規制の強化です。現代ビジネスの報道によると、中国当局は米・パデュー駐中国大使との会談後、フェンタニルの前駆物質2種類を規制対象に追加すると発表しました。

この措置は、トランプ政権が課した20%の関税撤廃を期待してのものですが、中国にとって大きな政策転換を意味します。これまで中国は、フェンタニル問題について消極的な姿勢を示していましたが、財政危機の深刻化により、対米関係改善を優先せざるを得なくなりました。

日本経済新聞の調査では、フェンタニル密輸に関与する中国組織の実態も明らかになっており、中国政府の規制強化は国際的な信頼回復にも必要な措置でした。

レアアース輸出制限の緩和で見せた妥協

もう一つの重要な妥協点が、レアアース輸出制限の緩和です。NHKの報道によると、アメリカと中国は6月にロンドンで行った貿易協議で合意文書に署名し、中国側がレアアースの輸出規制緩和を約束しました。

レアアースは中国の重要な戦略資源であり、これまで対米交渉の切り札として使われてきました。しかし、日本経済新聞の分析では、この輸出規制緩和が「6カ月の期間限定」とされており、中国の苦しい立場を物語っています。

この妥協は、中国が外貨獲得を急いでいることを示しています。輸出収入の確保が財政危機の緩和に直結するため、戦略的な譲歩に踏み切ったものと考えられます。

経済制裁の長期化に耐えられない財政事情

前述の通り、中国が一連の妥協に踏み切った最大の理由は、経済制裁の長期化に耐えられない財政事情にあります。Bloomberg の分析によると、習近平政権は第2次トランプ政権との貿易戦争に備えた経済強化を図っているものの、地方政府の財政破綻が足かせとなっています。

特に深刻なのは、災害復旧費用と債務返済の両方に対応する必要があることです。これらの支出は待ったなしの状況であり、貿易戦争による経済的損失を長期間受け入れる余裕がありません。

中国政府は2025年の経済成長目標を5%前後に設定していますが、調査会社ロジウム・グループの分析では、この目標を達成したとしても歳入は減少する可能性が高いとされています。このような状況下で、貿易戦争を継続することは現実的ではありませんでした。

まとめ

中国の財政が火の車状態に陥った現実は、習近平政権の外交政策に根本的な変化をもたらしています。30年に一度の大洪水による災害復旧費用、不動産バブル崩壊による税収減少、そして地方政府の債務危機が重なり合い、中国政府は米中貿易戦争において前例のない妥協を余儀なくされました。フェンタニル規制の強化やレアアース輸出制限の緩和は、財政危機の深刻さを物語る象徴的な出来事といえるでしょう。

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